-Disney-

『アイーダ』

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作曲/エルトン・ジョン
作詞/ティム・ライス
脚本/リンダ・ウルバートン、デビット・ヘンリー・ウォン他
演出/ロバート・フォールズ

 去年アトランタでこのミュージカルのトライアウト公演が行われ、まずまずの評価を得たものの、その後ディズニーは製作スタッフを入れ替え作品を作り直す事を発表した。 ブロードウェイでの開幕が来年3月に決まり、現在シカゴのキャデラック・パレス劇場で二度目のトライアウト公演が行われている。 今回はタイトルも、以前の『エラボレイト・ライブズ 〜レジェンド・オブ・アイーダ〜』から『アイーダ』に変更された。

 『アイーダ』といえばジュゼッペ・ヴェルディー作曲のオペラ(1871年初演)が有名である。 このミュージカルの製作が発表された2年前は、ソプラノ歌手レオンティン・プライスが1990年に発表した絵本の『アイーダ』が原作であると言っていたが、今回のプログラムには "ヴェルディーがオペラ作曲の元にした物語" とある。 余談になるが、ヴェルディーのオペラの元はエジプト学者オギュスト・マリエットが書いた4幕6場から成るストーリーであると言う説、オペラ "La Nitteti" (ニテッティ)であると言う説等あるようだが、果してディズニーの言う元とはどれを指すのであろうか? 

 目を模った巨大な象形文字が映し出された黒い緞帳が上ると舞台は現在の歴史博物館。 沢山のエジプト美術品がショーケースに展示されている。 大勢の見物人の中に誰かを探しているような女性と男性がいる。 そして一つのショーケースの中からエジプト・ドレスを纏ったアムネリスがオープニング・ナンバーを静かに歌い始める。 物語は古代エジプトにフラッシュバックし、エジプトの敵国ヌビアの王女アイーダがどういった経緯でエジプトの奴隷になったかがモンタージュで語られており、アトランタ公演の時とは一風変わった幕開きだ。 

 ストーリーはほぼオペラと同じなのでここで述べる必要はないだろう。 とはいえ、ラダメスに仕える青年メラブという登場人物の存在が一つの大きな違いとなっている。 彼はラダメスに仕える一方で、母国ヌビア(エジプトの敵国)に強い愛国心を持っており、奴隷となったアイーダの密かな相談相手となる。  また、アイーダとラダメスの死後は再び最初の歴史博物館の場面に戻る。 オープニングでお互いを探しあっていた女性(アイーダ)と男性(ラダメス)が舞台中央で時を超え再び出会い、幕となる。 

 脚本は前回に引き続きリンダ・ウルバートンが担当しているが、アドバイザーとして『M・バタフライ』の戯曲作家デビット・ヘンリー・ウォンがメンバーに加わった。 脚本と歌詞に大幅な変更は見られず舞台の進行は前回とほぼ同じである。 しかし、細かな変更はある。 例えばラダメスとアイーダがどう惹かれ合っていくのか具体的に語られた。 ディズニー特有の子供向けの台詞回しは前回ほど気にならないが、『ノートルダムの鐘』のように作品を完全に大人向けにするのを躊躇しているといった印象を受けた。 

 演出は今年『セールスマンの死』でトニー賞を受賞したロバート・フォールズ。 前回演出を担当したロバート・ジェス・ロスよりは作品をシリアスに解釈している。 舞台進行のテンポが遅いのが気にはなるが、これは今後直すことも可能だと思う。

 エルトン・ジョンによる音楽はロック、ゴスペル、バラードと幅広い。 今回の音楽アレンジはエルトン・ジョン本人が歌うデモ・アルバムやアトランタ公演の際とも違っており、どちらかと言えば今年発売されたコンセプト・アルバムにより近い。 何れにしても、出演者には高度なポップ・ミュージックの歌唱力が要求される。 キャストではアイーダを演じたへザー・へドリー(ライオンキングのナラ)が歌唱力、表現力共に豊かで輝いていた。 また今回はラダメス役が『レント』のオリジナル・キャストでロジャーを演じたアダム・パスカルに交代していた。

 装置、衣装は『回転木馬』でトニー賞を受賞したボブ・クローリーが担当。 エジプト色を最小限に止め、アジア、中近東のデザインを多く取り入れており、非常に現代的である。 ディズニー・マジックはこのミュージカルでも多数あり、アイーダ、ラダメス、アムネリスがそれぞれへの思いを歌う二幕の頭では、三角関係を象徴するかのようにレーザー光線により描かれたピラミッドが三人を囲む。 新しく追加されたアムネリスのファッション・ショーの場面では、近未来的でエジプシャンな衣装の数々が堪能できる。

 アムネリスのスパ(プール)の場面では、プールとプール・サイドを模した幕が観客の視線からもプールを覗き込んでいるような位置まで降りてくる。 観客がプールを上から見下ろしたような形となり、そこにフライングをしている出演者をあたかも水中で泳いでいるかのように観ることが出来る。 

 又、アイーダとラダメスの死の場面では、二人が入った立方体の墓が高くせり上がり、それが消えると同時に舞台全体に星が映し出される。 ただし、この場面での装置は技術的に複雑なようで、プレビュー二日目にはせり上がったこの装置が役者二人を乗せたまま落下、舞台は急遽ストップし客席に医者がいないかを呼びかけたり、救急車を呼ぶといったアクシデントに見舞われた。 幸いにも二人は軽い怪我で済んだが翌日の公演はキャンセルとなり、劇場には捜査が入るなど大騒ぎになった。 製作側は今後もこの装置の使用を続けるのか検討しているであろう。

 振り付けは『トミー』のウェイン・シレント。 武術を取り入れたものからオリエンタルな振り付けまであり、26名の少数キャストを上手に使っている。

 エルトン・ジョンによる音楽がポップ・ミュージックであるばかりでなく、衣装や装置のデザインまでもがここまで斬新で現代的だとミュージカルが古代エジプトの物語であるという事を観劇中にふと忘れてしまう事もあった。 ヴェルディーのオペラが初演された1871年当時、彼の音楽は新鮮なものと受け止められたのは確かである。 しかし彼がオペラの物語や美術など全てに考古学的正確さを求めていた事を考えると、今回のミュージカルような現代的解釈が良いのか疑問を感じた。  

 この日は年輩の観客が多く、オペラ『アイーダ』を知る彼らの多くにはこのミュージカルは受け入れられなかったようだ。 しかし、MTVなどの音楽ビデオに慣れ親しんだ若いジェネレーションには音楽やヴィジュアル面など最高のエンターテイメント作品になったであろう。

 今まで上演されたディズニー・ミュージカルと比べ、この作品は映画の舞台化ではない為作品の知名度は低い。 しかし、エルトン・ジョン作曲という事やブロードウェイ開幕に先立つコンセプト・アルバムの発売など話題性は高く、チケットの売れ行きが好調のようだ。 最近完成度の高い新作が少ないブロードウェイで、巨額の制作費を注ぎ込んでいる上により研きをかけて開幕すればこのミュージカルがヒットするのは間違いないようである。

 ブロードウェイでは2000年2月25日より上演。

98年アトランタ公演の評論

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