- DISNEY -
Alliance Theatre in Atlanta

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作詞・作曲/ティム・ライス、エルトン・ジョン
演出/ロバート・ジェス・ロス
観劇日:9/30/98、10/1/98

 今年『ライオンキング』でトニー賞の6部門を受賞したディズニーが、初めてアニメの舞台化ではなくオリジナル・ミュージカルとして、また大人向けの作品として発表したのが『エラボレイト・ライブズ 〜レジェンド・オブ・アイーダ〜』。古代エジプトを舞台に、将軍ラダメスが王女のアムネリスと婚約しながら敵国リビアの王女でエジプトの奴隷となったアイーダに心を寄せていく。

 アイーダといえば1871年に初演されたジュゼッペ・ヴェルディのオペラが有名である。 オペラ『アイーダ』の台本はアントニオ・ギスランツォーニ。 エジプト学者オーガスト・マリエット・ベイが古代エジプトの伝説などを基に書いた物語をギスランツォーニとヴェルディがオペラに仕立てたと言われている。

  『アイーダ』のミュージカル化は今回が初めてではない。 1952年にオペラ『アイーダ』を古代エジプトからアメリカの内戦時代に置き換えたブロードウェイ・ミュージカル "My Darlin' Aida" (マイ・ダーリン・アイーダ)が上演された。 今回観劇したディズニー・ミュージカルはオペラ歌手レオンティン・プライスが1990年に『アイーダ』の物語を子供用に書いた絵本がベースになっているという。 ヴェルディーのオペラとは違いこのミュージカルはアイーダ、アムネリス、ラダメスの三角関係に重点を置いたロック・オペラ。 作曲、作詞は『ライオンキング』と同じエルトン・ジョンとティム・ライス。 演出、振り付け、衣装、装置等のスタッフは『美女と野獣』と同じである。 まだブロードウェイで上演されることが決定した訳ではなく、今回はあくまでもトライアウト公演としてアトランタのアライアンス劇場で上演されている。 

 このミュージカルとオペラとでは細かいところで多少ストーリーが異っている。 一番の違いはこのミュージカルにはネケンという少年が存在することだ。 ネケンはエジプトで将軍ラダメスに仕え信頼を得る。 一方で母国リビア(エジプトの敵国)に強い愛国心を持ちエジプトの奴隷となったアイーダに密かにアドバイスをおくる。

 またオペラではどちらかというと、アイーダとラダメスに良心的でアムネリスに批判的なのに対してこのミュージカルではアイーダ、ラダメス、アムネリスの三人それぞれに好感が持てるように作られている。 リンダ・ウルバートンによる脚本が上手く書かれておりており、現代にあった脚色がなされていると思う。

 音楽や美術など全てに於て古代エジプトと現代の感覚をミックスして第三世界を創り出していた。 エルトンジョンによる曲はロック、ポップ、ゴスペルなど幅が広く名曲揃いである。 アムネリスがリードをとりキャスト全員で歌うオープニング・ナンバー "Every Story Is A Love Story" (エブリー・ストーリー・イズ・ア・ラブ・ストーリー) はロック・ミュージックで力強い幕開けとなっている。

 また、アイーダがラダメスへの思いを込めて歌うタイトル・ソング "Elaborate Lives" (エラボレイト・ライブズ)は静かな曲で劇中一度しか歌われないのだが、メロディーが奇麗で特に印象に残ったナンバーであった。 

 キャストは総勢28名。 アイーダ役には『ライオンキング』のオリジナル・キャストで大人のナラを演じたヘザー・へドリー。 『ライオンキング』では第二幕のみの登場で、"Shadow Land" (シャドーランド)以外にソロも無かったので彼女の実力の程は解らなかったが、今回の作品を観て彼女の歌唱力と演技力の素晴しさに圧倒された。 直向きで力強いアイーダを見事に演じた。 アムネリス役のシェリー・スコットとラメダス役のハンク・ストラットンもなかなかの好演であった。 ネケン役は『ライオンキング』のオリジナル・キャストで子供のシンバを演じたスコット・アービー=ラニアー。 変声期のようで声が不安定であったが、シンバとはまったく違った少年の役柄をうまく演じた。  

 衣装は『美女と野獣』でトニー賞を受賞したアン・ホールド=ワードによる。 エジプシャンなデザインを現代風にアレンジした衣装であった。 また今回の舞台で最も優れていたのがマット・ウエストによる振り付けとスタンレー・メイヤーがデザインした装置の二つである。

 マット・ウエストの振り付けはスピーディーで、ラダメスとアムネリスの婚約発表を祝うダンス・ナンバー "Night of Nights" (ナイト・オブ・ナイツ)では ポップ・ダンスにどことなくアラビアン・ダンスを加え非常に見応えがあった。 今回の装置は他のディズニー・ミュージカルのように決して派手なものではないが、今まで見てきた舞台装置の中では最も複雑で凝ったものであったように思う。 メインに象形文字が刻まれた巨大なピラミッドの装置があり、装置そのものに組み込まれたセリで上下し、舞台上を自在に移動する。 またピラミッドの一辺一辺が開きナイル川を渡る船に変形したり、王宮の階段になったりと多彩な動きをみせる。 そして変形したピラミッドの装置に舞台上下から出てくる他のセットが合わさり場面を作る仕組になっている。

 古代エジプトの物語を現代の感覚で伝えようとしたこのミュージカルはとても新鮮に感じられた。 オリジナル・ミュージカルを初めて手懸けたディズニーとしては非常に完成度の高い作品だ。 しかし禁断の恋を描いているため今までのディズニー・ミュージカルのように子供から大人までの幅広い年齢層で楽しめる作品とは言えないようだ。 また、ディズニー特有の子供を対象にした台詞回しが所々あり大人の物語として考えると違和感を感じる。 しかし今後の手直しによって書き替えられればより良い作品になると思う。

 ディズニーがアニメの舞台化だけでなくオリジナル・ミュージカルをも創れると云うことを証明した作品であった。

 

注: このアトランタ公演の後、ディズニーは作品の製作スタッフの入れ替えを決定。 演出はロバート・ジェス・ロスに替わり、今年「セールスマンの死」でトニー賞を受賞したロバート・フォールズが担当する。 振り付けは「トミー」のウェイン・シレント。 衣装、装置は「回転木馬」などを手掛けたボブ・クローリー。 脚本は引き続きリンダ・ウルバートンが担当するが、クリエイティブ・コンサルタントとして「Mバタフライ」の作家デビット・ヘンリー・ワンがメンバーに加わった。 またタイトルも「エラボレイト・ライブズ 〜レジェンド・オブ・アイーダ〜」から「アイーダ」に変更。 メインキャストでは、アイーダとアムネリス役は引き続きへザー・へドリーとシェリー・スコットが演じるが、ラダメス役は「レント」のオリジナル・キャストでロジャーを演じたアダム・パスカルに交代。 99年12月にシカゴでトライアウト公演を行い、ブロードウェイ開幕を目指す。

 

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