ANNIE GET YOUR GUN
「アニーよ銃をとれ」
Marquis Theatre

作詞・作曲/アーヴィン・ベルリン
演出/グラシェラ・ダニエルス

 一昨年高橋典子主演で再演された日本版が記憶に新しい。 射的の名手で田舎物のアニー・オークレーがショー・ビジネスの世界に入りフランク・バトラーのハートを射止めるまでを描く。 今回のアニー役はロイド=ウェーバーの「ソング・アンド・ダンス」でトニー賞を受賞したバーナデット・ピーターズが演じる。 演出は「ラグタイム」で振り付けを担当したグラシェラ・ダニエルス。 今回のリバイバルにあたり、「タイタニック」の脚本家ピーター・ストーンがオリジナルの脚本を大幅に書き替えた。 

 アーヴィン・ベルリンによる「ショー・ビジネスほど素敵な商売はない」や「ムーンシャイン・ララバイ」などのお馴染みの名曲を次々と聞けるのは嬉しいが、舞台全体の出来は余り良いとは言えない。 注目のバーナデット・ピーターズ扮するアニーは存在感はあるものの、この役に必要とされる無教養の田舎物らしさが表現できていなかった。 彼女はどちらかといえば酔っ払ったオバサンといった雰囲気のアニーであった。 またグラシェラ・ダニエルスとジェフ・カルフーンによる振り付けは切れ味は良いのだが、余りにも作品離れしている。 

 特に疑問に思ったのが2幕でアニーが着る(メダルがいっぱいに付いた)ドレスの衣装についてだ。 作品の設定上、アニーが射的で獲得したメダルが沢山ついていなければいけないはずのドレスに、メダルの代わりにダイアが散りばめられているのであった。 後で聞いた話であるが、ワシントンDCでのトライアウト公演の際にはちゃんとメダルが沢山付いた衣装が使用されていたが、アニー役のバーナデット・ピーターズの意向により物語の意向には関係なく変更になったそうである。  

 作品の古さを感じさせないグラシェラダニエルスの演出は見事であったが反面、作品本来の良さが脚本の大幅な書き換えにより大分失われていたような気がした。

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BAND IN BERLIN
「バンド・イン・ベルリン」
The Helen Heyes Theatre

演出/スーザン・フェルドマン、パトリシア・バーチ

 第二次大戦前のベルリンを舞台に、実在したクローズ・ハーモニーのグループ、コメディアン・ハーモニストの物語。 メンバーの中にユダヤ人がいるという理由でナチによりグループ解散をせまられる。 このグループを題材にしたミュージカルとして他にも「コーラスライン」を作曲したマーヴィン・ハムリッシュによる「ハーモニー」、 「シティ・オブ・エンジェルズ」や「ライフ」を作曲したサイ・コールマンが創作中のミュージカルとの2作がある。 両者ともブロードヴェイ上演を計画しているようである。 

 一足先にブロードウェイ入りを果たした「バンド・イン・ベルリン」にはこの作品のために作曲されたミュージカルナンバーは一曲もなく、代わりに実際にグループが歌ったヒット曲が次々と歌われる。 舞台に張られたスクリーンに写真や映像を映し出し、ドキュメンタリー・フィルムを観ているような演出である。 

 年老いたメンバーの一人がグループの活動について語ったインタビューの映像がながれ、これが物語りの進行をしていく。 そしてコメディアン・ハーモニストに扮した5人のキャストがピアノに合わせてヒット曲を次々に披露する。 驚いたのは、このいかにも本物らしいインタビューの映像は実はこの舞台のために作られたニセモノで、映像の中の人物も全員役者さんなのだそうだ。

 このインタビューの映像以外に映し出される映像や写真、これは実際の物だということだ。 問題は映像や写真の中のグループと舞台の役者共に同じ人物のはずが、顔が余りにも違い違和感を感じた。 また余りにも実写を使いすぎ、映画を見ているのか舞台を見ているのかわけがわからなくなってしまう。  

 キャストの歌の才能は素晴らしい。 しかしブロードウェイ・ミュージカルと言うよりはむしろキャバレーのショーのような作品であった。

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WIT
「ウィット」
Union Square Theatre

マーガレット・エドソン作
デリック・アンソン・ジョーンズ演出

 このストレート・プレイはオフ・ブロードウェイの作品なのだが、演出、キャスト共に非常に素晴らしい出来であったので紹介したい。 大学の英語教授のビビアンが末期の卵巣ガンと診断される。 最初のシーンで彼女が最終的に死ぬということは知らされるが、それに到るまでの医者、看護婦、患者の行動や考えが見事に再現されている。 

 特に印象に残ったのが末期ガン患者に対するマニュアル通りの医者の接し方を皮肉った台詞。 末期ガン患者が他人の勝手により延命治療を受ける事が良いことなのか問いかけられるという意味ではブライアン・クラーク作の "Who's Life is it Anyway?" (「この命誰のもの?」)と共通するものがある。 しかしこの作品の素晴らしいところは、死という重いテーマが英語の言葉の面白さを使い非常にユーモアに描かれていることである。 最初から最後までテーマの重さをまったく感じさせない。 

 主人公のビビアンが患者としてだけではなく、第三者として自分や医療システムについて語る演出は見事である。 また最後にビビアンが死ぬ場面で、医者が大切なサンプルを失ったと嘆く一方、ビビアン本人は身に纏っているものをすべて脱ぎ捨て体で自由を示すといった演出も面白い。 

 キャストは全員素晴らしかったが特に、ビビアンを演じたキャサリン・カルファントのスキンヘッドにしての熱演には感動した。 久々に素晴らしい戯曲に出会ったという思いがした。

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 THE CIVIL WAR
「シヴィル・ウォー」

(南北戦争)
St. James Theatre

作曲/フランク・ワイルドホーン
演出/ジェリー・ザックス

 今シーズン、やっと手応えのある新作ミュージカル「シヴィル・ウォー」が開幕した。 「ジキルとハイド」、「スカーレット・ピンパーネル」を作曲した今ブロードヴェイで最も注目されているフランク・ワイルドホーンの作曲。 アメリカの内戦の話であるが別にストーリーがあるわけではなく、実際に残された日記や手紙を元に、黒人奴隷の差別との戦い、南北両兵の苦悩や戦地での売春などのサイドストーリーに到るまでさまざまな視点から内戦を見ていく。 歌がメインの作品である。 ストーリーがない分、演出家の作品のまとめ方と音楽の出来で作品の良し悪しが決まってくるのだが、両者とも素晴らしかったと思う。 

 一年前にこの作品のデモ・テープを聞き、どの曲も余りにも退屈で実は全く期待をしていなかった。 去年秋にテキサスのヒューストンで行われたトライアウト公演の反応も今一つで、その後演出家降板といったトラブルもあった。 

 今回ブロードウェイでこのミュージカルを観劇してみて、その完成度の高さに驚かされた。 フランク・ワイルドホーンによる曲はポップやゴスペルやカントリー・ミュージックを使い非常に聞きやすくアレンジされていた。 デモ・テープでは40曲ちかくあったナンバーが、今回の舞台に使用されたのはその内24曲と適当な量である。 また難曲揃いのナンバーを見事に歌い上げたキャスト全員のずば抜けた歌唱力は圧巻である。 2幕で黒人によって歌われるRiver Jordanでは観客から自然とのりの良い手拍子が聞こえてくるから面白い。 

 装置は戦争によって破壊された柱が舞台前方にたっており、劇中に2回登場する巨大な女神像が舞台奥にあり、あとは手紙の文や写真などをプロジェクションとして幕に映し出すといった非常にシンプルなもので、フランク・ワイルドホーンの今までの作品にあった豪華さは良い意味でない。

 そして今回この作品を見事にまとめ上げたのが「スモーキー・ジョーズ・カフェ」やリバイバルの「ガイズ・アンド・ドールズ」を演出したジェリー・ザックス。 てきぱきとした演出で、シーンごとにまったく別の話であるのにもかかわらず、どことなく共通しているものがある。 選曲順はとても良く、舞台の上演時間も長すぎず一度も退屈することなく観ることが出来る

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YOU'RE A GOOD MAN, CHARLIE BROWN
「ユアー・グッドマン チャーリー・ブラウン」
Ambassador Theatre

作詞・作曲/クラーク・ゲンサー
演出/マイケル・メーヤー

 スヌーピーに出てくるチャリーブラウンを題材にしたミュージカルのリバイバル。 今回のリバイバルでは脚本が大幅に書き換えられ、新曲も追加されおり、リバイバルというより新作である。 キャスト総勢6名がスヌーピーなどお馴染みのキャラクターで繰り広げるドタバタ・コメディー。 

 衣装などはシンプルで原作のキャラクターに近くはないのだが、出演者全員キャラクターの特徴を上手く捉えて演じている。 時々余りにも舞台離れしたジョークが飛び出すのだが、最初から最後まで漫画を読んでいる感覚で観劇できる。 「レント」のオリジナル・キャストでマークを演じたアンソニー・レップがチャーリー役を演じている。 また「M・バタフライ」でトニー賞を受賞したB.D. ウォングなども出演しておりキャストは豪華だ。

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