SATURDAY NIGHT FEVER
『サタデー・ナイト・フィーバー』
演出/アイリーン・フィリップス

ミュージカル映画を舞台化し成功した作品はどれくらいあるのだろうか? 「美女と野獣」、「ライオンキング」、「42nd ストリート」などは舞台化に成功した良い例だが、近年のブロードウェイ上演記録を見るとミュージカル映画の舞台化がいかに難しいものか理解できる。 「ヴィクター・ヴィクトリア」、「上流社会」、「フットルース」とどれもここ数年に舞台化され興行収入が思わしくない作品である。 

今回観劇した「サタデー・ナイト・フィーバー」も1977年にジョン・トラボルタ主演で大ヒットしたミュージカル映画の舞台化。 ディスコ・ブームを巻き起こしたこの作品のストーリーは映画も舞台も同じである。 ニューヨークのブルックリンに両親と妹と一緒に住む19歳のイタリア系の青年トニーは、小さな商店で地道に働いているが、週末の夜だけは一遍変わって、仲間達と一緒にディスコに出かけていく。  そこで、退屈な日常生活を忘れ、誰にも負けないダンスをすることが彼の生き甲斐だ。  ガールフレンドのアネットをパートナーに、ディスコで行われるコンテスト優勝を狙うトニーだったが、ある日ダンスの上手なステファニーと出会い彼女を強引にパートナーにする。 ところが、ステファニーはマンハッタンに住む上昇志向の強い人間で、ブルックリンで生きるトニーとは波長が合わない。  なんとか壁を乗り越えてコンテストに漕ぎ着けた 2人はライヴァルを抑えて優勝する。 しかしトニーの目には明らかに身びいきの判定に見え、賞金をライヴァルに譲ってしまう。  その夜トニーは、ステファニーと組んで以来疎遠になっていた仲間たちと、以前のようにヴェラザノ橋で悪ふざけしていたが、仲間の 1人が誤って川に転落死する。 深い喪失感を味わうトニー。 橋のたもとのベンチで 1人打ちひしがれる彼にそっと寄り添ってきたのは、ステファニーだった。

ヒット曲が多数盛り込まれたオーヴァーチュアが流れ、その時点ですでにのりにのった観客の多くが音楽を共に口ずさんでいた。 幕が開き、車までしっかりと走っているヴェラザノ橋のミニチュアなど、ニューヨークの摩天楼が舞台上に再現されている。 装置が半分に分かれ、トニーに扮するジェームズ・カーピネロが人差し指を突き立てたあの有名なポーズとって登場し、オープニング・ナンバー「ステイン・アライブ」を歌い始めると興奮が頂点に達した観客からの大喝采がはじまる。 

ロビンワーグナーによる装置、アンドリューブリッジによる照明は豪華で、芸術性はないものの見ていて楽しい。 作品の重要な場面であるディスコシーンでは3つの巨大なミラー・ボールや非常に贅沢な照明機材を多用し劇場全体を70年代のディスコにタイムスリップさせる。 

キャストは総勢40名。 「ステイン・アライブ」、「ナイト・フィーバー」などの数々のヒット曲は、40名のキャストが歌い踊ると流石に見応えがある。 また装置、照明がダンスナンバーを盛り上げ、観客もキャストと一緒に踊っているような気分になれる。 

しかし舞台全体を通してこの作品の完成度には首を傾げざるをえない。 映画版ではそれらヒット曲が挿入曲(バックグラウンド・ミュージック)としてのみ使用されており、登場人物みずから歌うことはなかった。 これは、この映画が製作された際、同時に発売されたサウンドトラック・アルバムの売上を考慮してのことだった。 この方法は大成功し、その後多くの映画もこれと同じ方法をとる。 「フラッシュ・ダンス」、「フットルース」が良い例である。 さて、舞台でそれらの曲を実際に出演者がミュージカル・ナンバーとして歌い、歌詞までが映画と同じだとなぜ登場人物が物語の進行途中で関係のない歌を歌わなければならないのかと思えてしまう。 映画では歌がバックグラウンド・ミュージックとして場面々々を盛り上げていたのは確かだ。 しかし舞台で登場人物の言葉の一部として歌われると、いかに曲自体が物語と無関係なのか明らかになってしまう。 

演出、振り付けはこの作品がブロードウェイデビューとなるアーリンフィリップス。 大勢のキャストを余すところなく使ったステージング、またディスコ風ダンスを上手くミュージカルダンスに置き換えた力強い振り付けは面白い。 

以前も述べたように次々と歌われるダンスナンバーにより舞台は多いに盛り上がるが、それらの場面が作品全体を通して浮いてしまっており、トニーを中心に描かれた青春物語が必要ないのではないかと云う気がしてくる。 もっとも、舞台化にあたりストーリーよりもダンスナンバーの方が重要視されたのかもしれないし、観客もディスコにいる感覚で観劇出来る事を期待しているのかもしれない。 しかし映画「サタデーナイトフィーバー」の舞台化である以上ストーリーとダンス、音楽共に楽しめる作品であってほしかった。 これはミュージカル映画を舞台化する際の大きな課題であるように思う。

主役のトニーを演じたジェームズ・カ―ピネロは演技力はあるものの、極端にダンスと歌唱力に欠ける。 一番ダンスが上手でなければいけない筈のトニーがダンスシーンでまわりの足手まといになっているというのは余り好感が持てない。 その反面アンサンブルが素晴らしかった。 一人一人のダンス力もさる事ながら、名前もないキャラクターそれぞれがその時代を一生懸命に生きているといった印象を受けた。

ヒットミュージカル映画の舞台化は容易ではないと感じた作品であった。 また個人的にこの映画をビデオでのみしか知らない年代のため、今回初めて映画が公開された当時の熱狂ぶり、作品とその音楽の知名度の高さを肌で感じることができだ。

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